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家の近所には、肉屋、魚屋、八百屋が並んでいて、どの店もこのまちでは欠かせない存在だ。
しかし先日、魚屋さんが閉業してしまった。突然のことで、とてもショックだった。
この魚屋さんはご夫婦ふたりで営んでいて、行くといつも「今日も鯖かい?」とおじさんが出迎えてくれて、鮭を買うとその場で塩を振ってくれたり、お会計の計算はそろばんを使っていたり、品物を新聞紙にくるんでくれたり、平成生まれ東京育ちのわたしにはその一つひとつが新鮮で、何度見ても飽きなかった。
お二人ともとても元気だけれど、閉業した理由はおそらくご高齢だからかと思う。肉屋さんも「こればっかりは仕方ないよね〜」と言っていた。そう、悲しいけれど、仕方ない。
わたしの父も、祖父の代から続けていた印刷業 兼 文房具店を、還暦過ぎて閉じることになった。
お客さんのほとんどが常連さんだったため、ありがたいことに惜しむ声も多かったが、定年のない自営業は自分で辞め時を決めなければならない。あるいは、倒れるまで続ける人もいるだろう。
いま、たくさんの老舗が、跡継ぎがいないがためにどんどん閉業している。
我が家の場合は姉がカフェとして会社と場所を継いでいるけれど、そこにかつての景色はない。
せめて記憶のなかに、とどめておきたいと思う。印刷機の前に立つ父の姿や、いつも笑顔だった魚屋さんのご夫婦を。